ある人生
図書館で書棚を眺めていたら、ふとXさんのことを思い出した。
若いころ大変お世話になった人だ。
初めて失業して、退職の挨拶回りをしていたら、
「次が見つかるまで、うちに籍を置かないか」と言ってくれた。
何年か後に再会したとき、65歳過ぎてまだ仕事をしている。
「思いの外、仕事人間ですね」と軽口をたたいた。
「フリーが長かったから、厚生年金の期間が足りないんだよ」
顔は笑っていたが、心なしか寂しげに見えた。
人より何年か長く働いて、これからが余生というとき、
こだわった年金の恩恵もさして受けずに、ガンで亡くなった。
Xさんは若いころ、子連れの女性と再婚をした。
後年、その子どもが大きな文学賞を受賞した。
子どもの自慢話をするときの、
あの誇らしげな笑顔が忘れられない。
図書館の書棚には、その作家の著書が何冊も並んでいた。
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