人は寂しい
人はあるとき、ふっと寂しくなる。
どんなに華やかな人でも、自分に自信が持てなくなる。
あなたは誰ですか? 自分は誰ですか?
あなたの隣にいる人は、本当にあなたの味方ですか?
ワ~イ、ワ~イと騒いでいるけれど、
あなたは本当に楽しいですか?
北杜夫の「幽霊」にこんな一節がある。
人はなぜ追憶を語るのだろうか。
どの民族にも神話があるように、どの個人にも心の神話があるものだ。その神話は次第にうすれ、やがて時間の深みのなかに姿を失うように見える。--だが、あのおぼろな昔に人の心にしのびこみ、そっと爪跡を残していった事柄を、人は知らず知らず、くる年もくる年も反芻しつづけているものらしい。そうした所作は死ぬまでいつまでも続いてゆくことだろう。それにしても、人はそんな反芻をまったく無意識につづけながら、なぜかふっと目ざめることがある。わけもなく桑の葉に穴をあけている蚕が、自分の咀嚼するかすかな音に気づいて、不安げに首をもたげてみるようなものだ。そんなとき、蚕はどんな気持がするのだろうか。
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コメント
北杜夫の「幽霊」か。懐かしいね。しかし、内容はとうに忘れてしまっていた。指摘されてみるとなかなか深い文章で、この「幽霊」とか「楡家の人々」などか北杜夫の良さが出ているな。
投稿: 正 | 2009.05.21 16:00