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彼女のひたむきな12カ月/海路としての<尖閣諸島>/階級「断絶」社会アメリカ/開店休業/カラスの教科書/風のなまえ/考えの整頓/画家たちの「戦争」/ガラスの巨塔/骸骨ビルの庭/環境世界と自己の系譜/カムイ伝講義/内儀さんだけはしくじるな/科学哲学/家族のゆくえ/かわうその祭り/角栄失脚―歪められた真実/影の外に出る/会社はこれからどうなるのか/カルト教団 太陽寺院事件/楽聖ベートーベンの丁半

2017年2月18日 (土)

「彼女のひたむきな12カ月」アンヌ・ヴィアゼムスキー

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アンヌ・ヴィアゼムスキー 著
DU BOOKS(332p)2016.7.21
2,592円

神田の東京堂書店で新刊の棚を見ていたとき、文学書のコーナーでアンヌ・ヴィアゼムスキーという名前を目にしてぴんときた。そういえば彼女、女優をやめた後、小説家として有名になったんじゃなかったっけ? 帯にはこうあった。「ゴダールに恋した青春の日々。19歳のアンヌの葛藤と成長を描く、自伝的小説」

学生時代に新宿のアートシアターで見た『中国女』(1967)の一シーンを思い出した。三白眼の大きな目。キュートに尖った唇。肩にかかる茶髪をたくしこんだ中国の人民帽みたいな帽子に、やはり人民服のようなシャツ。赤い毛沢東語録を持って拳を振り上げている。中国文化大革命の紅衛兵に倣った女子学生。実際、このとき19歳のアンヌ・ヴィアゼムスキーはパリ大学ナンテール校で哲学を学ぶ学生だった。

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2013年12月15日 (日)

「海路としての<尖閣諸島>」山田慶兒

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山田慶兒 著
編集グループSURE(160p)2013.11.3
2300円+税

サブタイトルには「航海技術史上の洋上風景」とある。著者の山田慶兒は東アジア科学史の専門家。『中国医学はいかにつくられたか』や大佛次郎賞を受けた『黒い言葉の空間』などの著書がある。学問の世界で高い評価を受ける専門家が現実の政治問題、しかも尖閣諸島という日中間で炎上しているホットなテーマを取り上げたのが本書である。航海技術史という窓から見ると、尖閣諸島にはどんな風景が広がっているのか。

尖閣諸島が初めて文献に現れるのは中国の明代で、例えば『順風相送』には「釣魚嶼(魚釣島)」「黄尾嶼(久場島)」「赤尾嶼(大正島)」と記されている。『順風相送』というのは東アジアの海洋を航海するための指南書だ。こうした指南書は船乗りたちの間で書き写され、伝えられたハウ・ツー書で、彼らは必要に応じて手を加え、自分だけの冊子をつくった。それは自分だけのものであると同時に、仲間から伝えられ、仲間に伝えもする船乗りの共有財産でもあった。

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2013年8月19日 (月)

「階級『断絶』社会アメリカ」チャールズ・マレー

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チャールズ・マレー 著
草思社(560p)2013.02.28
3,360円

「ホワイト・トラッシュ(白いクズ)」という言葉を初めて聞いたのは確か『8マイル』という映画のなかだったと思う。白人ラッパーとしてスターになったエミネムが主演した自伝的映画。デトロイト郊外、貧困地域のトレイラー・ハウスに住むエミネムが、アフリカ系ラッパーに馬鹿にされながらMCバトルに挑戦する話だった。

エミネムの母(すっぴんのキム・ベイシンガーが素敵だ)は離婚し、小さな娘はほったらかし、酒浸りで若い男におぼれている。母は働かず、代わりにエミネムが市内のプレス工場でバイトしながらラップに入れ込んでいる。車を持たないエミネムはバスで工場に通う。その車窓に映る荒廃した町の風景が忘れられない。「ホワイト・トラッシュ」という言葉は、アフリカ系ラッパーがエミネムと仲間たちをそう呼んでいたのだったか、エミネム自身が自分たちを自嘲的にそう呼んでいたのだったか。

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2013年6月22日 (土)

「開店休業」吉本隆明・ハルノ宵子

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吉本隆明・ハルノ宵子 著
プレジデント社(260p)2013.04.23
1,575円

吉本隆明が死んで一年が経つ。当日テレビ・ニュースを見て「吉本リュウメイが死んだ」と家人に呟きながら、時代の変化を「誰かの死」という事象でしか体感しなくなっている自分に気づいたことを思い出す。吉本隆明に影響を受けた事は何かと問われても特段なにがある訳でもないのだが、「言語にとって美とは何か・第一巻」、「共同幻想論」の二冊は評者の使い慣れた本棚の一角に永らく陣取ってきているし、埴谷雄高の「虚空」とともに、なんとなく神棚のお札のような感じである。今年5月になって、立て続けに、「吉本」本が出版された。高橋源一郎と加藤典洋による「吉本隆明がぼくたちに遺したもの」岩波書店刊と本書「開店休業」である。

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2013年3月18日 (月)

「カラスの教科書」松原 始

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松原 始 著
雷鳥社(399p)2012.12
1,680

タイトルの通り本書はカラスの生態に関するものであるが、専門書的な書きぶりではなく、ちょっとした知的好奇心をくすぐる読み物として面白く書かれている。著者曰く、読み手によって本書はいろいろと姿を変える。カラスの初心者にとっては「教科書」であり、地方自治体の清掃・環境担当者にとっては「強化書」になり、カラス嫌いに対しては「教化書」、カラス大好き人間の「狂歌書」にもなるという。真面目な本であるが、著者の器用さや柔軟な発想がふんだんに仕組まれた本になっている。当然評者はカラス初心者なので「教科書」として読み進んだ。

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2012年10月 3日 (水)

「風のなまえ」榎本好宏

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榎本好宏 著
白水社(236p)2012.06.26
2,310円

著者は昭和12年生まれ、団塊の世代より一世代上。略歴によると「杉」という俳句誌の責任者を永く務めた人で、句集に限らず幅広い著作が紹介されている。本書も俳句の季語をベースとしているものの、和歌・漢詩・民話・ギリシャ神話を始めとして、日々の生活や生業たる農業・漁業などの伝統に根付いたさまざまな「風」にまつわる話で本書はまとめられている。大きくは春夏秋冬に加えて無季節という章をつくり、五つの区分で「風」を語っている。読んでみると、意味と成り立ちを再認識したものや、初めて知った「風のなまえ」もあり面白く読むことが出来た。季節の生活習慣・行事・生業といったものに関連して名付けられているだけに日本各地の多様性も反映されて、その名前は様々につけられている。

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2011年12月10日 (土)

「考えの整頓」佐藤雅彦

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佐藤雅彦 著
暮しの手帖社(288p)2011.11.01
1,680円

著者はいわずと知れた電通の「CMプランナー」として名を馳せた人物。現在、東京藝術大学映像研究科や慶応大学環境情報学部で教鞭をとっている。慶応大学の授業では「新しい考え方を考えよう」という方針を示しているようだ。映像・アニメーション・脳科学・表現学といった領域をカバーして新しい発想を創るという佐藤の活動の一端は「考える」という点で本書においても貫かれている。佐藤雅彦の名前を知ったのは、NECのCM「バザールでござーる」やNHKの「だんご三兄弟」などの映像表現を通してであり、新しい表現者という認識をしていた。

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2010年8月13日 (金)

「画家たちの『戦争』」河田明久ほか

Gaka

河田明久ほか 著
新潮社 とんぼの本(128p)2010.7.25
1,575円

東京・竹橋の国立近代美術館には153点の「作戦記録画」が収蔵されている。その一部が小出しに公開されてはいるものの、なぜかすべてが同時に公開されたことはない。 この153点の絵画は、第二次世界大戦中に日本軍から委嘱されたり、中国や南アジアへ派遣され従軍した日本人画家が制作したものだ。藤田嗣治、宮本三郎、小磯良平といった日本の絵画史に名を残す画家たちが参加している。 こうした公式の「記録画」だけでなく、民間の朝日新聞社が組織した大東亜戦争美術展などで発表されたものを含め、第二次大戦をテーマに描かれた絵画は総称して戦争画と呼ばれる。戦争画は、近代美術館に眠る「記録画」の全体像がきちんと公開されたことがないことからも分かるように、戦後、見ることも論ずることもタブー視されてきた。これらを見る機会が増え、戦争画について論ずる文章が活発に書かれるようになったのは、ようやくこの10年のことだろう。

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2010年4月 5日 (月)

「ガラスの巨塔」今井 彰 

Garasu

今井 彰 著
幻冬舎(383p)2010.02.25
1,680円

本書の帯には「この小説を書くためにNHKを辞めた」とある。NHKを退職したから書いたのではないのだという意地の宣言だ。著者の今井彰はプロジェクトXのプロデューサーとして名を馳せてきた男。退職を余儀なくされた経緯については各種メディアの報道で断片的に聞くことあったが興味半分の報道も多かったように感じていた。本書は小説と銘打っているものの、NHKにおける今井の生き様を書き綴った内容であることは言わずもがな。したがって、暴露本的な興味から本書を手にする人も多いことだろう。かく言う私もその一人。

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2010年1月 6日 (水)

「骸骨ビルの庭(上・下)」宮本輝

Gaikotu宮本輝 著
講談社(上292、下288p)2009.6.23
各1,575円

小説を読む楽しみって、こういうものだったよな。そんな読後感を与えてくれる本を久しぶりに読んだ気がする。物語の展開が巧みで面白く、文章に品があり、古風だけれど現代的なテーマを抱えている。
ちょっとした必要があって手に取ったんだけど、読みはじめたら止まらず、まる1日で上下巻を読んでしまった。宮本輝はデビュー当時の『泥の河』『蛍川』くらいしか読んでないから、30年ぶりのことになる。それにしても『1Q84』の村上春樹と『骸骨ビルの庭』の宮本輝、2009年に発表されたふたつの小説の作者がほぼ同世代とは信じられない(宮本は1947年、村上は49年生まれ)。なんて思ったのも、一方はポップで実験的、一方は端正な正統派と対照的な作風をもち、小説家としての立ち位置やキャリアに重なるところはほとんどないのに、テーマとしてやっぱり同世代だと感じさせるものを扱っていたからだ(あ、二人が関西人なのも共通か)。

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