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2008年11月 7日 (金)

「日本防衛のあり方」 江畑謙介

Bouei 江畑謙介著
KKベストセラーズ(326p)2004.09

1,680円

あの独特な髪型の江畑謙介がイラク・北朝鮮の状況を踏まえて書き下ろした軍事技術と日本の防衛を紹介したものである。「軍事的知識に日本国民は意図的に背を向けてきた。そうした無知を悪用する形で誤った情報が流されている」と言う基本認識に立って構成されている。確か に、私たちが国家予算に占める防衛予算比率や日米安保の極東条項といった解釈論に終始している間に、軍事技術の進化と地政学的なゆらぎはどんどん進んでい るという実感もある。本書はイラク戦争の総括(まだ早いが)、北朝鮮の軍事力、日本の選択という三点でまとめられている。

冷 戦後の戦争という概念は明らかに変わってきているというのが江畑の視点である。以前は政権を倒すと戦争の終わりだった。現在は政権を倒した後、国家の正常 化(一般的には民主化)の達成をもって戦争の終結というが、そうした概念に従っていえば、軍事力行使の当事者である米国国防総省はフセイン政権打倒を眼目 としていたが、それ以降のイラクをどれだけ考えていたのか疑問がもたれている。

一方、フセイン政権が拠り所としていた軍事力を破壊し打倒するという従来型の戦争の範囲では「極めて効率のよい」戦いをしたといわれている。暗視技術・ス テレス技術・ミサイル誘導技術・衛星誘導爆弾・統合コマンド・センター等。こうした要素技術とそれを統合した戦略を実践的に活用した最初の戦争としてイラ ク戦争の実態を紹介している。

特に衛星誘導爆弾は誤差可能範囲・CEP(半数必中界)を劇的に向上させたという。第二次大戦のCPEは1000mといわれている。ベトナム戦争時でも 122mだった。現在B-2ステレスに搭載されている衛星誘導爆弾は理論値で13m、実績値は4m以下といわれている。こうした技術は戦略だけでなく、戦 術・戦闘をも一変させてしまっている様だ。

フセインと金正日に代表される独裁政権の弱さを軍事面から次のように指摘している。

「イラク軍は現代戦を全く理解していなかった。その原因は、イラクは(バース党政権下で)戦争に負けた経験がなかったからである。・・・独裁政権は誤りを認めることは無い。誤りを認めるなら独裁政権でいられなくなるからである」

そして、「『軍人は一つ前の戦争に備える』といわれる。これはまさに人間(軍人)が、前の戦いの経験を基に物事を考えるからだ」「北朝鮮の装備を見ると、 最新兵器を入手でき難いという事情だけでなく、その必要性を本当に認識していないと思わざるを得ないものがある。・・・北朝鮮人民軍は、いまだに朝鮮戦争 を戦っている、としか思えない」

北朝鮮軍の特徴といわれる、自走砲重視の装備は朝鮮戦争の教訓といわれている。山岳戦・不整地戦で効果のあった兵器であるが、現在の対砲レーダーによる対 砲兵戦(カウンターバッテリー)と敵の移動把握(GPS・慣性航法装置)により、自分が弾を発射してから一分半以内に移動しないと自分が捕捉され反撃され るという。こうした目で北朝鮮の自走砲を見ると、対砲レーダーも情報戦に必須のアンテナ類を見ることが出来ないという。こうしたことは北朝鮮空軍の虎の子 であるMig-19戦闘機にも見られ、地対空ミサイルのレーダー波を探知する警戒装置のアンテナはない。

こうした、北朝鮮軍の状況から1950年の朝鮮戦争のように2-3ケ月で釜山まで攻め込まれたという状況は生れないと米国は判断したからこそ、在韓米軍の 削減を決断したし、韓国中央の大田に韓国陸軍と空軍の司令部をソウルから移したというのもソウルはともかく大田で確実に北朝鮮軍を食い止めることが出来る との判断だという。

このような、圧倒的な統合戦力を保持している米国と正面から戦うという戦略はなりたたない。従って、まったく違った戦いを仕掛けてくる。ひとつはテロであ り、もうひとつは核をちらつかせる瀬戸際外交である。こうした状況において、テロの不条理とか、瀬戸際外交の陰湿さとか、米国の馬鹿正直且つ単純な世界観 のあやうさが見えてくる。技術の進歩は人間の英知を越えるスピードで進むとはよく言ったものである。この本はそれを良く示している。同時に、日本の軍備の あり方はもっとまともに議論されるべきであるし、日本の外交力の無力さを実感させられる本である。(正)

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