「さびしいまる、くるしいまる。」 中村うさぎ
そのときと似たような恥ずかしさを噛みしめながら言えば、僕は中村うさぎの遅れてきたファンである。
タレントのおすぎは、『週刊文春』は「ショッピングの女王」から読むと言ったけれど、僕も同じ。ブランドものに狂い、ホストクラブにはまり、美容整形に
血道をあげる自分を毒気たっぷりに報告して、「ああ、中村うさぎは今週もカゲキだ」と思わせる。そのテンションが何年も続いているばかりか、読んでいて心
配になるくらいに上がる一方なのだ。
この本は、中村うさぎがホストクラブにはまった(彼女のセリフを借りれば「15歳年下のホストに恋をした」)顛末を書き下ろしたものだ。連載コラムでは
書けなかった部分、惚れたホストとのやりとりのディテールや、自分の深層心理分析にまで手が届いているこっちのほうが、断然おもしろい。
これは何人もが語っていることだが、中村うさぎのすごさは、ブランドに狂い、ホストに入れあげ、自らの顔を傷つける整形にのめり込む自分を、恐ろしいほどに突き離して笑いのめしていることだろう。
「私は本当に男運のない(てゆーか、むしろ男を見る目がない)ダメ女なのかもしれない」とか、「いーかげん白鳥になりたがるのはやめな、中村うさぎ」とか、自分に対する鋭い突っ込みは、うさぎファンにはおなじみのフレーズだ。
惚れたホストの売り上げのために、1本10万円のドンペリ(懐かしい名前!)を一晩に何本もあける。銀行口座には数万円しか残っていないのに、ついには
1本100万円のブランデーを入れる(リシャール・ヘネシー。で、その場でホスト全員でイッキ飲みしてしまう)。住民税滞納で、港区役所から差し押さえを
くらう。そんな愚行の数々。
中村うさぎほどに、バブルとバブル崩壊後の日本人の自画像をあからさまに、正確に、苦く、しかし愛をこめて描写し分析した書き手はいない、と思う。
中村うさぎのエッセイにリアリティーがあるのは、彼女が体を張って、自らの身と魂をこれでもかとばかりに削り、血を流しながら文字を記しているからだ
(身も蓋もなく言えば、自分をネタに商売してる)。ヴァーチャルなゲーム感覚こそが新しいと錯覚されている時代に、そんなふうに文章を書く人間は、ほとん
ど絶滅しかかっている。
かつて私小説作家は、いわば表現のために自分の生活を貧乏や不倫や乱行で染め上げた。その多くは自滅していったが、中村うさぎは彼らの正当な後継者とい
えるかもしれない。彼女のエッセイを読んで僕が思い浮かべたのは、なぜか川崎長太郎だった(川崎のような陰々滅々とした味わいではなく、やけっぱちの明る
さが彼女の持ち味なのは、時代のせいだろう)。
「苦しみや痛みを回避して、合理的に生きることはできる。だけど、それは私の人生じゃない。私はちゃんと、自分で感じたいの。愛の苦しみも、愚行の痛み
も、人生の空しさも、すべて自分で嫌というほど味わいたいの。のたうちまわるような苦しみの先に、きっと何か美しい物がある。私の人生に、ラクチンで平凡
な幸福なんかいらない。……地獄を通らなければたどり着けない天国に行きたい」
増えつづけるうさぎファンとは別に、「真っ当な業界」からは、中村うさぎはブランド狂い(ホスト狂い)を商売にしてると色モノ視されてきた。この本は印税前借りのカタに約束したもの、と公言しているように、確かにそうには違いない。
でも、中村うさぎの書くものに色モノのいかがわしさがないのは、自分は愚かだ、こんな自分が嫌だと書きながら、苦しみや空しさや傷つきの底で、結局のと
ころ彼女が自分自身を信じ、肯定し、そのことによって人間というものを信頼しているからではないか。だから、中村うさぎを読んで、読み手は元気づけられ
る。それがいま、中村うさぎが読まれている理由だと思う。(雄)
| 固定リンク
「 さ 行」カテゴリの記事
- 「残酷な遊戯・花妖」坂口安吾(2021.04.18)
- 「裁判官も人である」岩瀬達也(2020.07.17)
- 「在野研究ビギナーズ」荒木優太 編(2019.10.18)
- 「サリン事件死刑囚 中川智正との対話」アンソニー・トゥー(2018.12.16)
- 「ザ・カルテル(上下)」ドン・ウィンズロウ(2016.07.19)
コメント
偽物ブランドコピー専売店
ルイヴィトン 財布 長財布バッグ
スーパーコピーブランド激安ショッピングサイトです。
サポート体制も万全です。スタイルが豊富で。
最新作も随時入荷いたしております。
ご安心購入くださいませ。
★N品質シリアル付きも有り 付属品完備!
以上 宜しくお願い致します。(^0^)
ブランドコピー https://www.watchergz.com/watch/product-14663.html
投稿: ブランドコピー | 2020年5月17日 (日) 08時05分