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2008年11月 4日 (火)

「滅亡のシナリオ」 川尻 徹

Metsubou 川尻 徹 著
辰巳出版(270p) 1999.07.15
590円

巧妙な物語の導入
暑い盛りのままにハルマゲドンも来ず、2000年はすみやかに訪れようとしているが、オウムの活発な再生とそれへの新たな法律的対応の検討、海外教祖への終末が来なかったことによる信者の襲撃が伝わるなど、末世思想は必ずしも消滅した訳ではない。著者は平成4年死去の精神科医とあるように、再々刻の書。今も怪しげな戦争・兵器・見知らぬ国ものを第4特集ものとして抱える週刊プレイボーイに 1984年好評連載されたもののヒトラー部分のまとめ、連載の仕掛け人は最近も社会面を醜聞でにぎわした康芳夫である。祥伝社ノンブックスで1954年 に、その後クレスト社のクレスト選書に収載。

この本はオウムあるいは松本被告関連で話題を呼んだ。オウムが復活を噂され、終末論が未だ生きる内、なかなかの文庫本化と言えよう。週刊文春平成7年7月27日号で立花隆が「松本がハルマゲドンを起こそうとした謎が解けた」といったからだ。

松本はこの書を倣って、ヒトラーと同じくノストラダムスの予言を信じ、俗に解釈されているように自己の予言が外れると困るからハルマゲドン紛いを起こそうとしたのではなく、ノストラダムス予言の歴史を担う必然的使命を感じたから、というのである。

だが、紛いではなく第2次大戦は事実そのものである。“物語”は終始ドキュメント・タッチで、K・H氏(後に、康芳夫と知れるが)が奇妙な川尻私的論文 を週刊プレイボーイ編集部に持ち掛けた所から始まる。そして中田なる記者が川尻邸に出かけ、疑問を問いただすという形で“物語”は始まり、途中からは一方 的な講義調に変化する。

主論は、ヒトラーはノストラダムスの予言を実行すべく、第2次大戦を起こし、その敗北・滅亡も予見し自らそうなるべく実演してみせた、というものであ る。しかもヒトラーは自殺したのではなく、生き延び、最後の第四帝国を打ち建てるべく、周到に準備していたという。

その過程は、逐一ノストラダムス予言の各章各番の通りに読み解かれ、また歴史的機序や多くの証言・写真によって跡付けられていく。

例えば、歴史的側面では、勝ち戦であった怒涛のダンケルク戦の突如の前進停止、常勝ロンメル戦車軍団への支援停止、そして苦境迫る中でのアメリカへの宣戦布告など不可解なヒトラー判断は多い。これらを自ら勝利に導かないための予定調和と見做すのである。

それは聖書やヨハネの黙示録に示されている、世界の終末、サタンとの最終戦争(ハルマゲドン)、しかる後の神の国の到来、すなわち第四帝国の構築へ企図されたものと断じられる。

影武者だらけ、次第にオカルティックに
死亡の偽装工作には影武者がいた、とこれまた断じられる。ヒトラーの場合は2名。戦争の途中からすりかわっているとしての写真の変遷が、いかにもこじつ け様ではあるが、見事に我田引水的に紹介される。また、家系図を辿って痕跡不分明者に影武者の影が指摘される…。

全体の話の流れは連載ものだっただけに淀みがない。恐らく作法としては、プレイボーイ誌の読者の時々の疑点も考慮された形だったろうと推察される。戦争 末期のヒトラー暗殺事件(ワルキューレ作戦)そのものが、ヒトラー自身によって導かれたものであり、その理由は第四帝国への選良のため…、となる辺りから 少し待てよ、という感じが濃厚となる。

ただし、ユダヤ財閥と密約し資金を得ていたこと、またその密約とは、大量の兵器が費消される戦争を起こすことであったという筋立ては肯かせるものがある。

北欧の山々での第四帝国の秘密基地の存在やUFOの開発など終わりは全くのオカルチックと化すが、最後はやっぱり1999年に至る。この書は優れた作り 話には違いなかろうが、あるいはト本の初期の傑作と呼ぶべきかもしれないが、知的な興味を掻き立ててくれるのは間違いない。

初期の落合信彦作品の匂いをここに感じた。だが、もう何事も起こらず2000年は放たれた。(修)

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