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2008年11月 6日 (木)

「ローカル私鉄・なるほど雑学」 二村高史・宮田幸治

Local 二村高史・宮田幸治著
山海堂(342p)2003.02.23

1,680円

田畑の中を単行の気動車がトコトコ走っていく姿こそローカル私鉄の僕の原風景で、40年近く前にローカル線や地方私鉄を乗りに歩いていた頃のイメージが鮮明に残っている。その後、産業構造の変化による地方産業鉄道の廃止、国鉄民営化、第三セクター化などニュースとしての情報は得ていたものの変貌していったローカル線の姿を実感することはほとんどなかった。

ふ としたきっかけで本書を手にして、最近の各線・鉄道の状況を知るにつけても。原風景から明らかに変化している部分や依然としてイメージを温存している部分 などとともに、新しい視点も発見できたことは収穫である。それにしても「ローカル私鉄」というのもなにやら曖昧な言葉ではある。例えば、相模鉄道はローカ ル私鉄なのか大手私鉄なのか、どっちだろう。なかなか悩ましい。

神奈川県民には申し訳ないが下町育ちとしては「相鉄は当然ローカル線だろう」と思っていたりする。ただ、つぎのような優しい定義を示されると著者の鉄道に対する目線が良くわかるとともに納得もしてしまうのである。

「・・・地元に密着して小さいながらもその地域の産業や文化の発展に貢献し、旅の者にとってはその土地ならではの旅情を感じさせてくれる私鉄」

僕にとって相鉄は「ローカル私鉄の雄」、地元にとっては「大手私鉄」ということか。

さて、本文は、「第三セクターって何?」という教養ものから、茨城県八郷市付近の非電化の理由、鉄道名の由来、閉塞方式、CTCなどマニア向けのテーマ まで、63篇で構成されている。現場を訪れ丁寧にデータを集めているとともに、いろいろな切り口で一覧表にしてあることが大変わかりやすくしているのも本 書の特徴。

例えば、すれ違い交換のための信号所一覧・フリー切符一覧・大手私鉄譲渡車両一覧・地下鉄譲渡車両一覧・ツリカケ電車一覧・トロッコ列車一覧、等など。全国80社を超えるローカル私鉄が対象となって登場する。

過去、何度か訪れた千葉県の五井から上総中野を結ぶ小湊鐵道の由来について、
「・・・沿線のどこにも小湊どころか「小」も「湊」も付く駅はない。・・・この謎は内房線の五井から外房線の安房小湊までのばして、房総半島を横断しよう としていた。・・・しかし、最後の山脈を越えることができず、とうとう1928(昭和3)年に上総中野駅まで達したところで建設がストップしてしまっ た。・・・小湊鐵道は上総中野まで運行する便を減らしてしまい、現在は一日五本しかやってこない。・・・」

今、上総中野から外房線大原までは第三セクターのいすみ線として開通している。この線も本来は大原と木更津を結ぶ木原線として計画されていたのを断念。 夢が実現できなかった鉄道同士が上総中野で接続というのが今の姿である。房総半島も思いのほか山が深く、小湊鐵道に40年前に乗車した思い出は五井を出て 次第に山ふところに入って行き、蛇行しながら渓谷を進んで行った。房総半島横断鉄道建設の厳しさを実感できる景観だったと記憶する。

読者一人一人が過去一度は乗ってみたローカル私鉄の現状に再会して、新たな感慨を沸き立たせてくれる。今度の週末に小旅行をしてみようかと思い立たせる本である。

JR各社が画一化していく中で、ローカルの私鉄や第三セクターが個性的な風情を残して活躍している姿に応援を送りたい。一方、こうした公共交通機関は自 動車・バスに主力が移っていく傾向は今後とも加速していくだろう。鉄道という貴重なインフラ・社会資本を単なるノスタルジーで語るのではなく、地域の生活 や経済における資産として継承していく意識と自覚を著者は語りかけている。(正)

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