「骨の健康学」 林 泰史
骨のメカニズムを理解しよう
骨科が無いように、骨は縁の下の力持ちの役どころだが、今、日進月歩の領域でかつ他の科との関連が重要視されてきた。若年時の骨の成長はだれもが知りま
た実感しているが、どっこい骨はずっと生き続け新陳代謝を繰り返している。骨折が見事に修復することでそれは知れるが、そのメカニズムは3種類の細胞、破
骨、骨芽、骨(居眠り状態の)細胞の存在にある。
各々の役割は、骨の作り替えとカルシウム調整役の暴れん坊の破骨、新陳代謝の合図を破骨に送り自ら骨を造る骨芽、眠ってはいるがそれ以上の破骨を止める
骨と分れている。この間に介在するのが、カルシトニンという破骨を抑制するホルモン、これは骨粗鬆症を直す旗手、骨芽を促す副甲状腺ホルモン、細胞を結び
収容するコラーゲン(繊維網)やカルシウム・リン酸たちである。
骨量は青春時代に蓄えられる、そのピークは12歳女子、14歳男子で、18~40歳が高原状態で、全年齢では 台形状、ただし性差があり、女性は閉経とともに顕著に、男性では緩やかである。
骨は、水に溶けないタンパク質であるコラーゲンとカルシウムとの結合物で歯に次いで固い。だから、柔らかい臓器を守る保護作用や歩行を支える支持作用を
行える。骨の強さは体積で半分を占めるコラーゲン繊維の“つなぎ”と、ヒドロキシアパタイトという“のり”が造っている。
体内にあるカルシウムは、骨に含まれるカルシウム量が少ない人ほど動脈などにカルシウムがたくさんたまっている、というカルシウム・パラドックスという
現象で知られる。これが実は動脈硬化の機制で、破骨細胞が副甲状腺ホルモンからの命令を受け骨を削りまくり、それが血管にコレステロール共沈着したわけ
だ。
カルシウムは骨だけではなく細胞にとっても重要
カルシウムは細胞を働かせるという意味で生命の炎役を担っている。カルシウムの濃度に呼応して筋肉細胞は伸縮する。多いと縮み、少ないと伸びるのだが、
これは30年程前の日本の細胞培養研究の結果である。同時期、ロシアで脳細胞の働きにもカルシウムが関わっていることが発見された。生殖細胞にしても同
様。カルシウムは細胞を出入りする、内にはカルシウムは止まらずカルシウム・チャンネルを通して役目を果たす。
糖尿病、進行性筋ジストロフィー、ある種の痴呆などは、カルシウムが止まる異常が関わっている。カルシウムは腸管より体液に入るが、各細胞に届くのにはカルシウム結合蛋白という運搬用トロッコが働く、その作成を担うのがビタミンDである。
骨折はしばしば寝たきりの生因となるように厄介な骨の病気、それ以外の病気に細菌性骨髄炎がある。その細菌が結核菌だった場合がカリエスで、一般の化膿
菌より弱いにも関わらず、骨はその炎症に対してひろがるにまかせるというが、何故かは分かっていない。骨癌、骨そのものから発生する肉腫などと、他の臓器
からの転移の2種類があり、後者に対しては、痛みを除く、骨折を防ぐといった療法しか現在は無い。
骨折を防ぐには、骨を強くすること、転倒しないことが大事だ。骨を強くするには、カルシウムとビタミンDの摂取、血液中のカルシウムを効果的に沈着させ
るために運動することにつきる。ビタミンDを増やすためには日光浴も重要である。日本人はカルシウムが不足気味であるから、食事など日頃の心掛けも大切と
なる。具体的な目標は、一日のカルシウム摂取量200㎎増、夏なら木陰で30分、冬なら手や顔に一時間の日光浴、一日30分の散歩である。
骨粗鬆症を治す薬は現行7種類、カルシウム剤、閉経後の女性用にエストロゲン製剤、活性型ビタミンD製剤、痛みを和らげ破骨細胞の働きを抑えるカルスト
ニン製剤、骨形成を促すイブリフラビン製剤、カルシウムと結合しやすい分子を持ったタンパク質をつくるのに役立つビタミンK製剤、合成されたリン化合物の
ビスフォスフォネート製剤の7種で、現在150~170万人が治療・服用中と推定されている。
運動、食事、日光浴が大事な三カ条というのが、非常に分かりやすく、しかも、その事由が学問的な背景のもとに語られるだけに説得力がある。この書を呼ん
だ人は実行あるのみ。語り口も平易で、しかも異論についても、あるいは現況において不分明な領域も真摯に示されていてまさに良質な書。(修)
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