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2008年11月 4日 (火)

「脳の老化と病気」小川紀雄

Nou 小川紀雄著
講談社(236p)99.02.20
924 円

ブルーバックスは手軽な科学本として、手にもとりやすく、中には事典形式の厚手のものはごめんこうむりたいが、ハードカバーに劣らない内容で重宝している。何よりも校訂がしっかりしていること。安直本はほとんど無い。時折、科学の現況が気になる文科系の者には数式もあまりなくて安心できる。

目次を通覧すれば、この本は最新でかつ高い学問水準を伝えてくれることが知れる。著者は内科の臨床と研究双方の経験を豊富に持ち、不治の病といわれるアルツ ハイマーやパーキンソンについても治療薬が出てきていること、またその発病のメカニズムについても一定の研究成果がみられることを「はじめに」で述べ、本 文への誘導も適確である。

脳の老化、記憶と痴呆、運動機能障害とパーキンソン病、老化の科学、脳の健康の5章構成の各章から一般知識と少し違う所、つまり最新の医学見解を見てみよう。

老化は体細胞数の減少と細胞機能の低下と規定すると、体細胞の分裂を止めてしまうのは染色体の末端にあるテロメアの働きによる、それはダウン症などの早 老症の研究などからも分かっている。つまり細胞分裂するたびにテロメアは短くなっていき、やがて分裂は止まり寿命が来るという機制である。

一方、神経細胞は分裂しない、ここが脳の老化に大事な点だ。神経細胞の死に2種類あり、最近の注目は慢性の死に関係するアポトーシスにある。いま一つの ネクローシスは細胞が膨張崩壊するという急性に関係しているが、アポトーシスは逆に縮小、断片化の道を辿る死だが、これをコントロールすることで、老化や 神経変性の進行を遅らせられる可能性が現在注目されている。

記憶とは脳の可塑性に依存しているという。経験、学習によってソフトが詰め込まれていきグレードアップつまり姿を変えていく機能がある。この可塑性は年齢に連れて衰えていくが、脳を使っていれば良い状態で維持はできる。

さらに最近の知見では可塑性に加えて神経細胞が死滅すると発芽(再生)現象が起こることが分かってきた。記憶障害には意欲を持って脳を使うことが大事と考えられ始めている。

アルツハイマー病は男性よりも女性に多い大脳の変性疾患で、自覚の無い頻繁なもの忘れ・不安感→時間や場所の失見当識・日常行動の不能→感情喪失・寝た きり、という経過をたどる。脳内では記憶、学習に重要な神経伝達物質のアセチルコリンの著しい減少が起こっている。このアセチルコリンを分解する酵素阻害 剤が開発されている。発症原因はまだ不明だが、脳の老化がその基盤には違いない。

また遺伝性(家族性)アルツハイマーの原因遺伝子の研究も盛んだ。遺伝性と診断はできるが治療法は今後に待たねばならない。日本では外国より多いとされ ているのが脳血管性痴呆である。血圧のコントロールが必要だ。ごく最近ウイルス発見のニュースが流れたが、異常プリオン蛋白による狂牛病も痴呆疾患の一種 で、この他に痴呆症状を起こす病気はまだある。また、治らないと言われていた痴呆も個々の対症療法的に改善あるいは可逆させる薬や治療法も開発されてい る。

運動機能障害の典型的なものがパーキンソン病である。運動には動こうとする時の随意運動とそれに伴ってバランスを体が取る不随意運動とがあり、前者での 障害が脳出血や脳梗塞、後者がパーキンソン病だ。この病の典型は静止時での手の震えだ。前かがみの姿勢、脚がしっかり上がらない歩行、さらに抑鬱、妄想が 伴うこともある。しかし、Lードパ療法のお陰で必ず寝たきりになるとは限らない時代が来ている。

フリーラジカル(神経細胞の障害や変性の現場での悪玉としての遊離基)の酸化が最先端の研究と言えようか。例の活性酸素の問題だ。フリラジカル消去・抗 酸化薬としてドパミンアゴニストが注目を浴びている。最後に、脳のウエルネスのためには、体を鍛え、手を使う作業で脳のトレーニングとプラス思考が大切と 結ばれている。カタカナ後がしばしば出て来るのを気にせず、挿入図を参考にすれば、最新の身体の定説にチャレンジできる好著。

例によって、索引もしっかりしているし、さらに勉強する人用に類書の紹介もくわしいが、難を言えば、発見、開発、研究の初出年あるいは国、病院、医者、 そのきっかけまで記されていないこと。新書ではまあ望む方が・・・もっともブルーバックスの読者を考えると、案外その方が好まれるかも。(修)

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