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2011年11月12日 (土)

「ねじれた文字、ねじれた路」トム・フランクリン、「USAカニバケツ」町山智浩

Nejire

トム・フランクリン 著
早川ポケット・ミステリ(360p)2011.09.15
1,785円



Kani

町山智浩 著
ちくま文庫(352p)2011.10.10
756円

この2冊を書店のレジへ持っていったとき、まさか一緒に並べて本の感想を書くことになるとは思わなかった。一方はミステリー、一方は「超大国の三面記事的真実」とサブタイトルの打たれたエッセイ集。ミステリーのほうはbook-naviで取り上げる候補にと考えていたけど、「カニバケツ」は以前から著者・町山智浩のブログを愛読していたので、ちょっとしたお楽しみに買ったのだ。それがつながってしまったのですね。共通項はアメリカ南部。

『ねじれた文字、ねじれた路』は幼なじみ2人が25年後に、ある事件から再会する物語だ。

舞台はミシシッピ州シャボット(グーグルで探しても見当たらない。架空の町らしい)。人口500人、製材所があるだけでスーパーもATMもない、森に囲まれた小さな町だ。この町のただ一人の治安官(警察官に近い)がアフリカ系のサイラス。治安官といっても住民からの通報で郵便ポストに入り込んだガラガラヘビを殺したり、言わば町の何でも屋といった存在である。

ところが静かな町に事件が起こる。町の有力者、製材所を営む一家の19歳の娘が失踪し、行方が分からなくなったのだ。住民の間で噂が飛びかう。またラリーの仕業ではないか。「スケアリー(おっかない)・ラリー」と呼ばれるラリーは、町でつまはじきされている白人の中年男。住民は誰も彼とつきあおうとしない。ラリーは高校時代、デートした同級生の娘が失踪し、容疑者として取り調べられたことがある。結局、娘の行方は分からなかったが、以来、「誘拐犯、強姦魔、殺人鬼」のレッテルが貼られてしまった。

事件を調べる治安官のサイラスは25年ぶりにラリーの家を訪ねる。2人は幼なじみで、高校までは同級生だった。

そんなふうに小説が始まるのだけれど、著者のフランクリンは章ごとにサイラスとラリーそれぞれの視点から、2人の少年時代と現在を交錯させて物語を進めてゆく。

ラリーは幼いころから吃音で喘息もち。スティーブン・キングの小説やコミックが大好きで、森でヘビやトカゲをつかまえては納屋に「爬虫類展示館」をつくっている。貧しい未婚の母と2人暮らしのサイラスは、そんなラリーのただ一人の友達。ラリーと一緒に森へ行ってヘビをつかまえたり、釣りを教わったり、銃を撃たせてもらったりして遊んだ。

「変なやつだったんだ。ずっとはずれの山のなかに住んでて、友だちがひとりもいなかった。野球の試合に来たことはないし、学年のダンスパーティにも来ない。ずっと本ばかり読んでた。学校にとんでもないものを持ってきた。捕まえたヘビとか。気を惹こうとしたんだな。3年生だったと思うけど、一度、ハロウィーンのときに、モンスターの仮面をつけて学校に来た」

そんな本好きで変わり者の少年が、初めてのデートで同級生の娘が行方不明になったことから「誘拐犯、強姦魔、殺人鬼」と噂されて町から排除されてゆく……。

ミステリーとしては展開が平板で、興奮するような謎解きはない。2人の少年が抱える家庭の秘密も、途中でなんとなく見当がついてしまう。でもこの小説が最後まで読む者を惹きつけるのは、山野の緑も夜の闇も濃いアメリカ南部を舞台にした青春小説の面白さがあるからだろう。モンスターのように恐れられる中年男が抱える孤独な魂。友を利用し裏切った少年時代の記憶に苛まれるアフリカ系の治安官。失踪事件をきっかけに、遠く隔たった2人が捜査官と容疑者として顔を合わせることになる。

南部の迷宮のような山野を舞台にした小説にはフォークナーの古典からトルーマン・カポーティやフラナリー・オコナーといった脈々とした流れがあるけれど、これはそうした南部小説のライトノベル版といった感じ。人物の設定に血と暴力に満ちたフォークナー『アブサロム、アブサロム!』を思わせるところがあるように思う。

そんなふうに『ねじれた文字、ねじれた路』を読み終え『USAカニバケツ』を読みはじめたら、いきなりこんな話に出くわした(2冊ともタイトルの意味がよく分からないと思うけど、説明すると長くなるので興味を持たれた方は書店へ)。

場所は『ねじれた文字…』の舞台であるミシシッピ州南東部からミシシッピ河を600キロ遡ったアーカンソー州の小さな町、ウェスト・メンフィス(こちらは小説でなく実録だから実在の町)。

1993年、この町で3人の小学生が行方不明になり、翌日、町外れの森で死体が発見された。子どもたちは全裸で手足を縛られ、全身の血液を抜かれ、一人は性器を切り取られていた。警察はすぐに2人の高校生、ダミアンとジェイソンを逮捕、悪魔崇拝の儀式のいけにえとして子どもたちを殺したと発表した。

実はダミアンは以前から警察に目をつけられていた。ダミアンは町でただ一人、黒のTシャツを着てオカルト本を読み、ヘヴィメタルやパンクの音楽を聞く、いわゆるゴス(GOTH)少年、ジェイソンはその弟分で、近所では変わり者扱いされていた。2人を知る知恵遅れの少年が12時間に渡って密室で取り調べられ、少年の「自白」を唯一の証拠として2人は逮捕された。

アメリカの南部から西部にかけては「バイブル・ベルト」と呼ばれ、保守的な福音派プロテスタントが支配する一帯だ。ウェスト・バージニアもそのなかにあり、「アメリカ一貧乏なアーカンソー州の中でも特に貧しい」地域でもあった。知恵遅れの少年を警察に連れて行ったのは、賞金目当ての近所の主婦だった。まず知恵遅れの少年が、殺人の共犯で起訴された。

「裁判で弁護側は、何一つ物的証拠がないこと、ジェシー(知恵遅れの少年)の自白が明らかに強制されたウソであることを主張したが、ムダだった。裁きを下すのは地元民から抽出された陪審員たちだ。貧しく、学歴も教養もなく、キリスト教を盲目的に信じ、悪魔を本気で恐れ、ヘヴィメタルやパンクを聴く若者を殺したいほど憎む四十歳以上の白人である。彼らには物的証拠など必要なかった。陪審団はジェシーに、殺人の共犯で無期懲役の判決を下した」

次いでダミアンとジェイソンの裁判が始まる。その過程で、性器を切り取られた少年の養父が持っていたナイフに、殺された義理の息子の血液型と同じ血痕が残っていたことが判明する。ナイフのギザギザの刃が少年に残された傷跡と似ていることも分かった。ところがナイフの血痕と少年のDNAを鑑定する途中で、警察の「ミス」により血痕サンプルが分解されてしまう。養父の追及はそこで終わってしまい、結局、ダミアンには死刑、ジェイソンには無期懲役の判決が下された。

ここまで読んできて思った。ゴス少年ダミアンは、『ねじれた文字、ねじれた路』の「誘拐犯、強姦魔、殺人鬼」ラリーと瓜二つではないか。一方は小説、一方はエッセイだけど、小さな町で変わり者とされた少年が、なんらかの事件が起こると何の証拠もなく犯人と決めつけられてしまう。『ねじれた文字…』あとがきによると、主人公ラリーの造型にはアラバマ州の小さな村で育った著者トム・フランクリンの体験が反映されているという。とすれば、この小説の背後にも著者の似たような体験が潜んでいるのかもしれない。

日本でも村八分の例があるように、閉ざされた小さな共同体ではしばしばこういうことが起きる。アメリカ南部は孤立した小さな町が多い上に宗教的民族的要素も絡むから、異物排除の空気が都市より濃厚なのはさまざまな小説や映画で描かれている通りだ。

ところで『USAカニバケツ』は、ゴス少年裁判のような奇怪な事件、スターやスポーツ選手のゴシップ、映画やテレビの話題、町のトンデモな出来事を集めたコラム集。アメリカという国は国土が広大で人口も多く、しかも多様な宗教・民族・言語が入り乱れ、貧富の差も激しいから、時に日本人の常識では信じられないようなことが起こる。映画ライターとしてアメリカに長く滞在した著者は、そんなネタをテレビや雑誌、タブロイド紙からこまめにひろい集めている。

「スーパーのレジに売っているタブロイド紙のほうが、ウォール・ストリート・ジャーナルよりはるかにリアルな、笑えて、泣けて、ゾッとさせられるアメリカ人の実像を映しているのです」とは著者の言葉だ。(雄)

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