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2019年3月

2019年3月15日 (金)

「贖罪の街(上下)」マイクル・コナリー

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マイクル・コナリー 著
講談社文庫(上320・下320p)2018.12.14
各950円

ミステリーのシリーズものを読む楽しみは、なじみのバーで酒を飲むのに似ている。バーへの道筋の風景は、すっかりなじんでいる。扉を開け、まずはお気に入りの席が空いているかどうか目で確かめる。その席に座ると、バーテンダーが黙っていても自分のボトルをカウンターに置いてくれる。いつもの酒(ジャック・ダニエルズのソーダ割)が目の前に差し出される。そして気の置けない会話。すべての手順が決まりきって、すべてが心地よい。

ミステリーのシリーズものを読むのも、そんな安心感とともにある。なじみの主人公と、主人公を取りまく常連たち。彼らの関係性が時に発展し、時に停滞しながらも小宇宙をつくりだし、そのなかに浸るのが快い。でも読者というのは贅沢であり残酷でもあるから、長いことシリーズものを読んでいると、ある瞬間、その小宇宙になじみがあるからこそ飽きがくることがある。そんなふうにして、いくつのシリーズものと別れてきたことだろう。

ローレンス・ブロックの探偵マット・スカダーものは飽きがくるまえにシリーズ自体終わってしまったが、ロバート・パーカーのスペンサー・シリーズ、パトリシア・コーンウェルの検視官スカーペッタ・シリーズ……。ほかにもある。そんななかで、今も読みつづけているのがマイクル・コナリーの刑事ハリー・ボッシュ・シリーズだ。『贖罪の街』は、その最新作。

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「三輪山 何方にありや」鈴木 慧

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鈴木 慧
郁朋社(248)2019.01.29
1,620円

タイトルの通り、古事記の中巻に記述されている神武東征(筑紫からの侵略)に対して、守る側の奈良盆地連合王国のリーダーたちの戦いの一年を描いている小説。神武東征がテーマであれば狭野彦(神武天皇)からの目線で語られる話が常であるが、本書では連合王国の王である饒速日と最大集落の首長である長髄彦を中心に、彼らの思惑と智謀、そして戦いの日々を通して一人ひとりを描写している。饒速日は長髄彦の義弟である。彼は王としての正統性や集落の開拓や運営におけるバランスの観点と、饒速日が権力欲がないこと、もっと言えば権力を握るだけの戦力を保持していないことを理由に王に推戴されているといった設定がこの話のポイントのひとつになっている。

西暦175年、連合王国の新年の幹事会からこの物語は始まる。筑紫勢が周防、吉備を制したといった情報は以前からもたらされていたものの、筑紫勢の目標が奈良盆地であるとは王国の人々にとって身近な問題としては考えていなかった。しかし、軍勢の動きから、侵略の危険が目前に迫った王国の首長たちにとって共通の敵の存在が明らかになり、結果として王国の結束を強めていく。最終意志決定機関である幹事会での首長たちの発言の順番、発言の表現や言い回しといった緻密な描写は首長間で微妙な駆け引きが必要だったこと、そして時代を超えて組織論としてのリーダーたちの思惑と心情が巧みに綴られている。

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