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増補版 1★9★3★7/石の虚塔/イベリコ豚を買いに/怒り(上・下)/池波正太郎の東京・下町を歩く/1968/1Q84/遺稿集/命の詩 : 月刊YOUとその時代/いとしいたべもの/一号線を北上せよ/イラクの小さな橋を渡って/池袋ウエストゲートパーク、少年計数機、骨音

2016年4月19日 (火)

「増補版 1★9★3★7」辺見 庸

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辺見 庸著
河出書房新社(408p)2016.03.20
2,484円

この本のタイトルは「イクミナ(逝く皆)」と読ませるらしい。1937、つまり昭和12年という年号は以前から気になっていた。というのは昭和史に関する本やエッセイを読むとき、1937年は社会の空気が戦争に向かって雪崩をうって傾斜していった年だった、と複数の体験者がそろって指摘していたからだ。

この年7月、盧溝橋事件が起こり日中戦争が始まった。もっとも、人々にとって戦争はまだ遠い外地の出来事で、戦争はすぐに終わると楽観的な空気が流れていた。しかし10月に国民精神総動員運動が始まり、新聞やラジオ、映画などメディアが動員され、全国津々浦々の町内会まで組織されて兵士への慰問、勤労奉仕、節約などが呼びかけられた。戦争は、一気に身近なものとなった。11月に日本軍は上海に上陸、中華民国の首都だった南京まで侵攻して大虐殺を引き起こす──そういう年だったのだ。

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2014年12月17日 (水)

「石の虚塔」上原善広

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上原善広 著
新潮社(287p)2014.08.12
1,620円

戦後日本の考古学を俯瞰すると、1947年の群馬県岩宿遺跡の発見により大きく進歩した一方、2000年に発覚した旧石器発掘捏造事件によって、その権威も信用も大きく毀損してしまった。本書は、この二つの事象を連続した一つの物語として在野の研究者や学者達の行動や発言を詳細に描き出し、まさに「石に見せられた者たちの天国と地獄」の60年間に亘る物語を創りだしている。

著者は1973年生まれというから、団塊の世代の子供達といった世代にあたり、2010年に「日本の路地を旅する」で大宅壮一ノンフィクション賞を受け、その後も活発に著作を発表している。しかし、考古学を取り上げたのは本書が初の試みであるようだ。本書が対象としているのは考古学そのものではない。したがって、旧石器の遺跡写真が掲載されているわけでもなければ、石器の形式学的図表が示されているわけではない。考古学という学問領域の舞台に立った多くの人々を、まさに群舞のように描いて見せた作品である。

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2014年7月16日 (水)

「イベリコ豚を買いに」野地秩嘉

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野地秩嘉 著
小学館(253p)2014.03.31
1,620円

著者の野地秩嘉を知ったきっかけは、2003年頃に海外出張の折にJALの機内誌で目にした紀行文だ。ベトナム戦争時にサンケイ新聞特派員としてサイゴンに赴任していた近藤紘一が書いた「サイゴンから来た妻と娘」(1978年刊)をトレースする形でサイゴン・バンコック・パリを巡り、近藤と家族となったベトナム人母娘の足跡を辿ったもの。そこでの野地の表現する各地の空気感の精緻さと、人々に対する穏やかな目線が、近藤のそれと重なり、日本という小さな視点から解放されるような気分で読んでいたことを思い出す。野地はノンフィクション作家という枠をはるかに超えて「日本一のまかないレシピ」といった本までも手掛けていることもあり、てっきり本書は「イベリコ豚」を使って、自分なりのユニークなレシピで美味い料理を作ってみた、というものなのかと思っていた。ところが、読んでみれば、単なる「豚肉」ではなく「豚そのもの」をスペインまで買いに行き、行きがかり的に日本でハムの商品化を実践するという壮大な話なのだ。

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2014年4月15日 (火)

「怒り(上下)」吉田修一

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吉田修一 著
中央公論新社(上284、下260p)2014.1.25
各1,296円

吉田修一には芥川賞を受けた『パークライフ』以来、都会に生きる男と女を主人公にした小説が多いけれど、『長崎乱楽坂』といった中上健次ふうなビルドゥングスロマンや『横道世之介』のようなユーモア青春小説、『太陽は動かない』や『路』みたいな企業小説と、ずいぶん多彩な作品をもっている。もっとも、どのジャンルの作品も典型的なジャンル小説でなく、いろんな枠組みを借りて結局は吉田修一の世界が展開されているわけだが。

もうひとつ、このところ吉田の小説で多いのが『悪人』『さよなら渓谷』といった犯罪小説だ。ここでも犯罪小説とはいえ、ミステリーのクライム・ノベルとは趣が異なる。犯人探しがテーマになっているわけではないし、『悪人』では主人公が殺人を犯した動機も心理もほとんど説明されない。主人公をとりまく人間たちの目や言葉を通して、かろうじて殺人犯の輪郭が浮かび上がるにすぎない。

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2012年5月14日 (月)

「池波正太郎の東京・下町を歩く」常盤新平

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常盤新平 著
KKベストセラーズ(221p)2012.02.09
840円

私は千駄木に10年間住んでいる。下町は結構ウォーキングなどで歩きまわっているけれど、その歴史や薀蓄について、それほど詳しいというわけではない。書店で「下町」という背表紙についつい反応してしまうのはそのためだろうか。今回、常盤新平「池波正太郎の東京・下町を歩く」を手に取った。本書は、随所に「鬼平犯科帳」「剣客商売」など池波の著書計13作品からの引用が散りばめられていて、他の下町案内とは一味違うつくりになっている。単なる下町散歩のガイド本としてだけでなく、池波作品のガイド本としても十分楽しめるというわけだ。

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2009年10月 9日 (金)

「1968(上・下)」小熊英二

1968 小熊英二 著
新曜社
1094p・下1014p2009.7.7、下2009.7.31
7,140 

以前、ブック・ナビで『<民主>と<愛国>』について書いたとき、小熊英二の本はどんどん厚くなる、次の本は1000ページを超えるかも、なんて書いたことがある。半分冗談のつもりだったけど、最新作19681000ページどころか、上下合わせて2100ページ。2冊重ねると厚さ11センチ、重さ2キロ以上にな400字詰め原稿用紙で約6000枚。れでも草稿を6割に縮たそうだ。最近の中身の薄い新書は400×250程度で1冊にしてしまうから、それで換算すれば24冊分になる! この大きさ重さの本を読むのは、脳細胞だけじゃなく身体的にも楽じゃない。老眼の小生、本を読むときは眼鏡をはずし、本を少し目に近づけるから、机に置いたのでは遠すぎる。仕方なく本を手首で支えることになるわけで、そうなると頻繁に左右に持ち変えないと手首が痛くなる。読書して腱鞘炎なんて笑い話にもならないもんな。

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2009年7月 9日 (木)

「1Q84」(Book 1・2)村上春樹

1q84 村上春樹
新潮社(
558p506p2009.05.30
1,890

去年、ニューヨークに滞在していたとき、通っていた語学学校の会話クラスにイタリアから来ている学生Aがいた。アメリカに来て3年になAは、ほぼ不自由なく英語をしゃべるけれど、授業に7割以上出席していないと学生ビザを維持できないので、そのためだけに学校に来ていた。流行の角ばった黒縁の眼鏡をかけ、髪を短くした伊達男のAは、レストランでウェイターの違法アルバイトをしながら労働ビザかグリーンカードを手に入れる機会を狙ってた。「ニューヨークにいられるなら何だってするよ」というのが口癖だった。会話クラスはAのようなレベルから僕のようにたどたどしい英語しかしゃべれない者までいろんなレベルの生徒が混在している。週2度の授業にA必ず遅刻してきて窓際の席に座り、他の生徒が苦労してしゃべっているのを黙って聞いていることが多かった。何か自分が口を出したい話題になるといきなり多弁になり、とてもシニカルな意見を口にする。

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2008年11月12日 (水)

「遺稿集」 鴨志田 穣

Ikou 鴨志田 穣著
講談社(384p)2008.03.06

1,680円

この本を手にするまで、鴨志田穣なる人物を私は知らなかった。ある作家の文章に初めて接するのが遺稿集というのも珍しい経験だ。奥付をみると沢山の本を出している。その中の数冊に目を通し、同時に彼の妻であったマンガ家・西原理恵子の作品にも目を通した。

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「命の詩 : 月刊YOUとその時代」阿久 悠

Aku 阿久 悠著
講談社(228p)2007.12.21

1,680円

2007年8月、阿久悠が70歳で他界した。多くのメディアは彼の仕事を振り返り、同時に楽曲がTVなどを通じ て数多く流れた。高度成長期の歌謡曲・ポップスをビジネスとして仕掛けていった一人であり、作詞した曲が5,000曲を超えると聞くと好き嫌いは別として 時代を創っていったプレーヤーの一人であったということを痛感させられる。久しぶりに耳にした楽曲が阿久悠の作詞だったのかと再認識させられることも多 かった。本書は阿久悠が1976年に創刊し、執筆・編集した「YOU」という、雑誌というにはあまりに薄い、ブローシャーともいうべきA4・8ページの小冊子を抜 粋編集したもの。寡聞にしてこの小冊子の存在は知らなかったが、「YOU」は4年間続き、個人誌としては息の長い活動が続けられたようだ。

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2008年11月10日 (月)

「いとしいたべもの」 森下典子

Itosii 森下典子著
世界文化社(174p)2006.04

1,470円

外食が当たり前になったことでレストラン・ガイドが氾濫し、物と情報の伝達構造の変化でお取り寄せは誰もが出来るようになり、生活にゆとりが生まれ、料理は楽しみに変わった。そうした昨今、店の宣伝かと勘違いしそうな「食べ物」本が多い中で本書は心象風景的な食べ物に関する想いを素直な文章で表現し、力みのない快作である。

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