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境界の発見/金融史の真実/[銀河鉄道の夜]フィールド・ノート/記者たちの関西事件史/きことわ、苦役列車/菊とポケモン/木村伊兵衛のパリ/9条どうでしょう/キメラ ――満洲国の肖像/旧石器時代の型式学/霧のむこうに住みたい/北朝鮮に消えた友と私の物語

2016年5月18日 (水)

「境界の発見」  齋藤正憲

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齋藤正憲 著
近代文藝社(190p)2015.12.15
1,620円

本書のサブタイトル「土器とアジアとほんの少しの妄想と」とあるように、広域アジア(最西端のエジプトから最東端の日本・インドネシアまで)における土器の製造技術を地域ごとに比較・検証するという、土器・陶器好きにとってはなかなか興味深い一冊である。ただ、土器といっても考古学的な研究成果を描いているのではなく、現在、アジア各地域の人々が製造・作成する日常品としての土器が対象である。フィールドワークを通して現地での調査を行っており、必然的にその地での生活に接していくことから、結果として、比較対象は土器を超えて文化や食にまで広がっていき、そこから紡ぎだされてくる広域のアジア観を「境界」と「辺境」という概念を導入して構成しようとするものだ。

今まで多くの学者・知識人たちが提示してきたアジア観も紹介しつつ、自説、著者の言い方を借りると「妄想」、を提示している。土器を探し求めて歩き回る中で著者は自身のアジア観が常に修正を求められてきたと書かれているのが印象深く、体験や実感によって理論を随時見直していくというフィールドワークの価値がそこに示されていると言える。

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2014年6月15日 (日)

「金融史の真実」倉都康行

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倉都康行 著
筑摩書房 (237p)2014.04.07
842円

マクロ経済に関する本を手にするのは久しぶりだ。35年間の現場での仕事、10年間の経営の立場を通して、管理すべき数値は売上高、営業利益、顧客満足度、他社比成長率といった極めてミクロ的な指標を追いかけてきたこともその原因。当然、景況感とか市場動向、為替といった常識的な範囲でのマクロ指標に関する目配りもしていたものの、現場感覚で言えば「営業利益」こそ、自らが作り出した価値という分かりやすい達成感が組織の一体感を醸成していた。金融機関や投資家の方々が、企業価値とは経常利益や純利益だと言われるのはもっともではあるが、働いている人間にとっては自分の汗の結果こそ実感の源泉であった。そんな評者に対して、金融界に長く身を置いていた方から、読んでみたらと勧められたのが本書。「売上・品質・利益・競争」を卒業したからには、ゆっくりマクロ的視野で社会を見てみたらという助言なのであろう。

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2013年7月17日 (水)

「[銀河鉄道の夜]フィールド・ノート」寺門和夫

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寺門和夫 著
青土社(137p)2013.05.24
1,470円

「銀河鉄道の夜」は宮澤賢治作品の中で最も多くの人々に読まれてきた作品だろう。その物語を「科学の視点から謎を解く」というのが本書の狙いである。著者は1947年生れ、早稲田大学理工学部電気通信学科卒業の科学ジャーナリスト、一般財団法人日本宇宙フォーラム主任研究員と紹介されている。宇宙、DNAに関するものなど著作も多い。

賢治は28才(1924年)のときに「銀河鉄道の夜」を書き始め、37才(1933年)で死去するまで原稿に手を入れ続けたと言われている。死後、散逸した部分草稿が段階的に明らかになったこともあり、「銀河鉄道の夜」は第一次稿から第四次稿に区分されるというのが定説である。現在、確定稿とされている第四次稿は筑摩書房の「校本宮澤賢治全集」刊行(1972年)に際して、天沢退二郎と入沢康夫の研究によって確立されたもので、その経緯についても本書で詳しく紹介されている。

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2013年5月12日 (日)

「記者たちの関西事件史」産経新聞社

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産経新聞社 著
光村推古書院(439p)2013.03.30
1,260円

本書は、約30年間に関西で発生した犯罪・事故・災害など新聞紙面を飾った事件を取り上げて、当時担当記者として取材の最前線にいた人たちによる回顧の記録である。記事として報道された事実だけでなく、記者達が置かれた家庭状況や人間模様を振り返りながらの事件史となっている。したがって、客観的な事件記述という意味だけに期待しては本書の一方の面からだけの評価になるだろう。読み終えてみれば、業種による仕事の違いはあるものの多くの他業界のサラリーマンと同様、組織との葛藤、家族と仕事の兼ね合いなど、苦労・苦悩・苦闘が尽きないことも良く判る。そうした記者たちが、ある事件では手分けをして、ある事件では一人の記者が執筆している。署名文章だけに、「産経新聞社著」となっているが「記者達個人」としての述懐であるところにその面白さが出ている。

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2012年7月11日 (水)

「機械より人間らしくなれるか?」ブライアン・クリスチャン

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ブライアン・クリスチャン 著
草思社(413p)2012.5.24
2,940円

AI( Artificial Intelligence・人工知能 )の進歩は1950年代から営々として築かれてきた技術である。IBMのDeep Blueと名づけられたシステムが時のチェスの最高実力者だったガルリ・カスパロフと対戦して2回目の挑戦で勝ったことから、世の中の人々に人間対コンピュータという競争を知らしめることになったのはもう15年も前のことである。2011年にはIBMのワトソンと名づけられたシステムがクイズ番組で人間に勝ってしまった。チェスのAIは多くの手の中から最善手を選び出す技術であり、一方、クイズは曖昧な質問を理解した上で、多岐にわたる分野の蓄積された知識を組み合わせて正解を見つけるという技術。AIもここまで来たかという感慨も持つが、人間社会の進歩への貢献という視点に立てばこうしたAI技術をチェスやクイズのために活用すること自体に特別な意味がある訳ではなく、日常生活において実用化されている状況にこそ目を向ける必要があると思う。そして、著者は今のIT環境に対して次のような問題提起をしている。

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2011年3月10日 (木)

「きことわ」朝吹真理子、「苦役列車」西村賢太

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「きことわ」朝吹真理子 著
新潮社(144p)2011.01.25
1,260円
「苦役列車」西村賢太 著
新潮社(152p)2011.01.25 
1,260円

第144回芥川賞を同時受賞して話題になっている2冊を読んでみた。「きことわ」は新しい文学の最前線として、「苦役列車」は古風な私小説として、対照的な作品の受賞に話題づくりの意図を感じないでもないけれど、新人賞はできるだけ多くの才能を見出し、育てることに意義があるのだから、賞に値する作品でさえあれば目くじらを立てることもない。

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2010年10月 8日 (金)

「菊とポケモン」アン・アスリン

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アン・アスリン 著
新潮社(412p)2010.08
2,415円

日本語版を出すに際して出版社から「菊とポケモン」というタイトルを提示されてショックを受けたと著者は書いている。いわずと知れた「菊と刀」は「日本と日本人」の文化の特殊性を徹底して指摘しているものであるが本書は日本発信の文化がグローバル化されていくプロセスを明らかにするという狙いであることを考えると対極にあるものと思う。したがって、「菊と刀」をパクッたようなネーミングに違和感を覚えるのも著者だけではないだろう。原題の「Millennial Monsters : Japanese toys and the global imagination」は強いていえば「千年紀のモンスター達」とでも訳すのだろうが、モンスターという言葉をアニメやゲームの主人公たちを示すとともに現実世界と想像世界を繋ぐものの総称として表現している。

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2008年11月10日 (月)

「木村伊兵衛のパリ」 木村伊兵衛

Kimura 木村伊兵衛著
朝日新聞社(287p)2006.07

14,700円

1954-55年にカラー・フィルムで写されたパリ。その色調はフィルムの特性か、レンズの特性か、あの時代の パリの色あいか。はたまた木村伊兵衛の気持ちを映した発色なのか。多少鮮明さを欠くものの繊細な色調の写真を見ていると、鑑賞する側の捉え方に自由度を許 容する懐が深い作品が多い。1954年にはニコンSとライカM3を使いフィルムはコダックとフジのカラー・フィルム。1955年はライカ M3とフジのカラー・フィルムで撮影されたもの。フジのカラー・フィルムは昼光でASA10とのことで、写真を撮る側の制約の大きさは想像に難くない。こ の渡仏時の作品はいろいろな形で公表・出版されてきているが、今回はその作品を一気に写真集としたものである。

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「9条どうでしょう」 内田 樹ほか

9jou 内田 樹 小田嶋隆 平川克美 町山智浩 著
毎日新聞社(200p)2006.03.25

1,260円

これは4人の書き手による憲法論、なかでも憲法第9条をめぐる論集である。と書けば、この出だしを読んで早くも 身を退く人がいるかもしれない。えっ、ケンポウキュウジョウ? もう、いいよ。あるいは、彼らは護憲派? それとも改憲派? と、性急な答えを求める人も いるかもしれない。でも、ちょっと待って。これは今まで山のようにある護憲派、改憲派双方からの憲法論議とはだいぶ趣がちがう。第一、この4人のメンツ、従来の憲法論議ではお目にかかったことのない人たちじゃない?

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2008年11月 7日 (金)

「キメラ ――満洲国の肖像」山室信一

Kimera 山室信一
中公新書(430p)2004.07.25

1,008円

1993年に出版されて吉野作造賞を受けた『キメラ』の増補版が出た。法制思想史を専門とする山室信一のこの本は、「日本人が歴史上、初めて経験した多民族国家の形成と、そのユートピアの無惨な失敗」(増補版のためのあとが き)としての満洲国の歴史を扱っている。手軽に読める満洲国の通史はほかに見あたらないから、旧版はこの植民地国家について知ろうと思ったらまずこれを手 に取るしかないという定評のある本だった。

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