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駄犬道中おかげ参り/谷崎潤一郎文学の着物を見る/堕天使殺人事件/立ちそばガール! /大東京23区散歩/ターミナルタウン/男性不況/台湾海峡一九四九/棚田 その守り人/大往生したけりゃ医療とかかわるな/だから猫はやめられない

2016年12月20日 (火)

「駄犬道中おかげ参り」 土橋章宏

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土橋章宏 著
小学館(427p)2016.09.14
1,620円

著者の土橋は「超高速 ! 参勤交代」で華々しくデビューの後、時代小説を得意ジャンルとして活躍している気鋭だ。「駄犬道中おかげ参り」は天保元年(一八三〇年)の「おかげ参り」が舞台となっている。この年「おかげ参り」の人数は二百五十万人を超えたといわれている。江戸からの道中は東海道を進み伊勢の四日市宿から分岐して松坂宿を経由して伊勢神宮に至るというルート。旅としては十五日から二十日程の旅だろうか。年端もいかぬ子供達が柄杓一本を持って旅が出来た。この柄杓をみると宿場の人々は伊勢への信心の旅人とわかり施し(路銀の寄進)をしてくれる。人数だけでなく、子供達の安全を担保する環境があったことに驚かされるばかりである。

江戸から伊勢までの旅物語に登場する人物は三人と一匹。まったく見ず知らずの彼らが、江戸を発ち、最初の品川宿、次の川崎宿の間でたまたま出会い共に旅をするというストーリー。

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2016年6月12日 (日)

「谷崎潤一郎文学の着物を見る」大野らふ+中村圭子編著

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大野らふ+中村圭子編著
河出書房新社(160p)2016.03.20
2,052円
谷崎潤一郎を読んだことのある人なら、殊に大正期の初期作品や、己の本性に先祖返りした晩年の作品を読んだことのある人なら、谷崎がどんなにフェティッシュな作家であるかはよくわかっている。

いちばん有名なのは、谷崎が足フェチであることだろう。短編小説「富美子の足」の隠居は「お富美や、後生だからお前の足で、私の額の上を暫くの間踏んで居ておくれ」と富美子に懇願するし、「瘋癲老人日記」の主人公は、元踊り子だった息子の嫁・颯子の足型を取って自分の墓に刻み、嫁の足に踏まれて永眠したいと願っている。颯子のモデルで、谷崎の息子の嫁だった渡辺千萬子と谷崎との往復書簡を読むと、谷崎は実際にそんな願望を千萬子に語っていたのがわかる。

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2015年8月17日 (月)

「堕天使殺人事件」ボリス・アクーニン

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ボリス・アクーニン 著
岩波書店(326p)2015.06.25
2,052円

ロシアのSFはストルガツキー兄弟はじめ豊かな伝統があり、『ストーカー』とか『神々の黄昏』とか映画にもなっているけれど、ロシアのミステリーというのは読んだことがない。書店でぱらぱらページをめくって、19世紀ロシアを舞台にした歴史ミステリーらしいとわかって食指が動いた。

ボリス・アクーニンという名前からして、なにやら怪しげだ。訳者解説を読むと、アクーニンというペンネームは日本語の「悪人」から取ったという。もともと日本文学に通じ三島由紀夫をロシア語訳したジャパノロジストで、本名はグリゴーリイ・チハルチシヴィリ。彼がアクーニンの名前で、モスクワ警察特捜部のファンドーリンを主人公に出版した本書がベストセラーになり、その後発表された「ファンドーリン・シリーズ」はロシアで大ブームを巻き起こした。テレビドラマ化や映画化もされたそうだ。本書は1998年に発表されたその第1作。

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2014年9月11日 (木)

「立ちそばガール! 」イトウエルマ

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イトウエルマ 著
講談社(224p)2014.05.21
1,296円

本書は、日経ビジネス誌のインターネット配信サービスである日経ビジネスオンライン(NBO)に連載されていた、都内の「立ち蕎麦店」食べ歩きのエッセイ「ワンコイン・ブルース」を書籍化したものである。本書を手にしたとき、青・壮年の男性会社員がNBOの利用者層の殆どを占めるとすると、「立そば」と「女性」という二つのキー・ワードがその読者層にプラスに作用するとは考えにくいと直感的に思った。「蕎麦」といえば評者を含めて、世のおじさん達の得意領域であり、とめどなく薀蓄を語りたがるものだし、ましてや蕎麦屋で遭遇する女性客が運ばれて来た蕎麦に手を付けるでもなくおしゃべりをしていたりする姿に、蕎麦屋の親父に成り代わって「早く食え」と言いそうになった経験は一度や二度ではない。また、立そばのイメージについても半世紀前の駅そばのイメージが強く、単に「早いのが取り柄」と見てしまうこともあって、やや斜に構えての読書スタートとなった。

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2014年5月16日 (金)

「大東京23区散歩」泉 麻人

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泉 麻人 著
講談社(322p)2014.03.14
2,592円

著者の泉麻人は1956年生まれ、雑誌編集者を経てコラムニストとしての活躍が長い。TVの人気番組である「アド街ック天国」のコメンテイターとして出演していたのは随分昔のことのように思っていたが、調べてみると、1995年に番組スタート時から5年間ほど出ていたようなので、評者のような団塊の世代からすると、たかだか20年前ということになる。当時、泉は30歳台後半ということだから、街の薀蓄を語るプロとしてその立場に居たというのも才能なのだろう。

本書は2009年から2013年4月までの49回にわたって「おとなの週末」誌に連載された「大東京23区画報」を一冊の本にまとめたものだ。ただし、変化の速い東京の街だけに、例えばスカイツリー建設中に書かれた墨田区の項は、完成している現時点での加筆が行われている等、常に完成形はないのかもしれない。基本的に、東京23区の各区を2回に分けて書いており、中央区・港区・世田谷区だけは例外的に3回に分割している。各区のポイントとなる町や界隈を選択し、歩いているのだが、千代田区を例にとれば、1回目は、丸の内、番町、九段南を、2回目は九段北、神保町、神田、秋葉原をカバーしているという具合だ。

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2014年3月 9日 (日)

「ターミナルタウン」三崎亜紀

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三崎亜紀 著
文藝春秋(453p)2014.01.15
1,785円

久しぶりに三崎亜紀の本を手にした。「となりまち戦争」や「廃墟建築士」など、その大胆で奇想天外な発想のフィクションとして楽しませつつ、じつは我々の生活の紙一枚向こうではそうした奇想天外さが現実になりかねないという怖さを表現してきた作家だ。本書もまた読者の期待には十分応えてくれる一冊となっている。三崎の作り上げた精密な設計図に裏打ちされた情景や人物設定による文章は時としてマニアックすぎる表現の部分もあるが、それでいて、けして嘘っぽさを見せることがない密度感はノンフィクションとフィクションの間を微妙に揺れ動く「架空世界」を巧みに構成している。

本書のテーマは「鉄道」。交通輸送インフラとしての鉄道システムの発達や変化とともに、衰退していった「静原」という町がその舞台。舞台装置は広大な駅舎、プラットホーム、そして「トンネル(隧道)」である。日本の鉄道システムになぞらえてみると、この町は在来線(狭軌中央軌道)の駅と同時に支線(北端線)の接続駅の機能を持つことで、ターミナル駅として発展してきた歴史がある。町の郊外にはニュータウン開発が行われ、静原町(駅名としては「静が原」とするなど三崎も芸が細かい)とニュータウンを結ぶ新交通システムのタウンシャトルが導入されている。

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2012年12月13日 (木)

「男性不況」永濱利廣

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永濱利廣 著
東洋経済新報社(224p)2012.10.26
1,575円

本書のタイトルである「男性不況」という言葉は、リーマン・ショックの後の2009年にアメリカにおいて全体失業率が10%に達し、同時に男性失業率が女性失業率を2%上回る事態になったことをミシガン大学の教授が’Mancessionと名付けたことに由来する。アメリカではオバマ政権のもと苦労しつつ

も各種の雇用対策によって徐々に状況は改善して、男女差も縮まり、’Mancession’という言葉はもはや使われなくなっている。一方、日本では依然としてこの問題は解決されることなく、むしろ拡大し続けているというのが著者の指摘。この実態と原因を考察し、とるべき政策についての提言が本書の内容である。

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2012年8月12日 (日)

「台湾海峡一九四九」龍 應台

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龍 應台 著
白水社(434p)2012.06.22
2,940円

本書のタイトルは、満州事変にはじまり国共内戦に至る中国国内の混乱の結果、1949年に蒋介石国民党政府や多くの難民・学生たちが台湾に逃れてきたことに由来する。現在の台湾の政治体制や文化のありかたはこの時点で決定されたと言われている。著者の龍應台は1952年に台湾の高雄の生まれ。作家として、また評論家として活躍している人物である。米国の大学で学び、ドイツでも生活をしてきた国際派であるが、現在は台湾で大学での教鞭をとりつつ、今年(2012年)の5月に行政院の初代文化省大臣に就任した女性である。

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2012年6月11日 (月)

「棚田 その守り人」中島峰広

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中島峰広 著
古今書院(250p)2012.04.10
3,360円

山と谷の風景のなかに幾重にも重なる棚田の美しさに惹かれる人は多い。僕も、この本に取り上げられる滋賀県大津市仰木の棚田にはじめて行ったとき、棚田とそれを取り巻く雑木林が織りなす里山の懐しい光景にうっとりした記憶がある。『棚田 その守り人』の著者・中島峰広には、既に『百選の棚田を歩く』(正続・古今書院)の著書がある。「棚田博士」と呼ばれる中島は棚田学会会長で、NPO「棚田ネットワーク」の代表。農業地理を専門とする研究者だ。『百選の棚田を歩く』は農水省が認定した「日本の棚田百選」を訪ね歩いたもので、本書はその続編。続編といっても、「百選」はもともと自治体がばらばらの基準で自薦したものなので、ここで取り上げる全国40カ所の棚田が「景観のうえで、あるいは保全の取り組みにおいて百選の棚田に比べて劣るというものではない」という。

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「大往生したけりゃ医療とかかわるな」中村仁一

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中村仁一 著
幻冬舎(213p)2012.01.28
798円

著書は、「がんになったら治療しないで大往生しなさい」と説いている。ある意味、大胆な主張だから、賛否両論があるだろう。ところが結構売れているらしい。おそらく、この本の読者は、ある程度の高齢者で、しかも健康な人たちに違いない。現在闘病中の人や、家族が闘病中という人は、本書を手に取らないだろうし、例え読んでも共感はしないだろう。私自身、闘病中の友人がいて、その友人にこの本を推めようとは思わないし、共感しにくい部分も少なくない。だから、ここでは、がんに関する部分についての論評は最小限に留めておく。むしろ、私が共感したのは、前段の「孤独死」に関する記述である。

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