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文学部で読む日本憲法/プロパガンダ・ラジオ/福島の原発事故をめぐって/日本の大転換/原発社会からの離脱/「フクシマ」論/ブラッド・メリディアン/ブラッサイ パリの越境者/PLUTO プルートウ/不良定年/封印される不平等/仏教が好き!/ブッシュの戦争/フィルムノワールの時代

2016年10月19日 (水)

「文学部で読む日本憲法」長谷川 櫂

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長谷川 櫂 著
筑摩書房(167p)2016.08.04
842円

俳人として活躍している長谷川櫂がなぜ憲法を語るのかという、そのギャップ感に後押しされて本書を手にした。帯には「その言葉の奥の時代精神を読み解く」とある。長谷川は俳句に接すると、俳句を生み出した日本文化とは何かといった想いに直面すると言う。限られた字数での表現の中に感情や心象を見つけ出して鑑賞するにはその文化と時代認識が必要であるということだろう。また、日本文化について書かれた名作と言われている谷崎純一郎の「陰翳礼賛」を昭和初期の時代精神を読みとるテキストとしているが、第二次大戦の敗戦を踏まえた時代精神を読み解くための最適なテキストは何かと考えた時、最も相応しいものとして「日本国憲法」を選んだと言っている。

通常、日本国憲法を語ろうとすると、条文の解釈や具体的な運用事例などがその中心になると思うのだが、「日本国憲法を文学部で読む」と言っている本書の趣旨は「法律も文学も言葉で書かれており、その言葉の奥に広がる世界を解明しようとする文学の方法で新たなるものが見えてくるのではないか」という挑戦的なもの。このように「言葉」をキーワードにして、「自分の欲望を行動や言葉で正当化する厄介な人間という動物」と「日本国憲法」の共存をどう図ろうとしているのかを探る旅のようなものだ。

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2014年10月13日 (月)

「プロパガンダ・ラジオ」渡辺 考

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渡辺 考 著
筑摩書房(351p)2014.08.25
2,484円

本書は太平洋戦争時に戦時国際放送として日本から放送された「ラジオ・トウキョウ」の記録であり、放送の実態とその責任を検証しようとするものだ。NHKでは戦時の海外向け短波放送について、日英間の謀略放送の歴史、戦争末期のアメリカからの謀略放送等の特番を放映してきている。しかし、これまでのNHKテレビ番組は二つの視点が欠落していると著者は指摘している。それは、国内ラジオ放送はどのように戦争を日本国民に伝えていたのかという視点と、「ラジオ・トウキョウ」が敵国アメリカや連合国軍に対してどのような謀略戦略を仕掛けていたのかの二点である。

これらを解明しようとする番組企画がNHKで2009年に開始され、いままでは、終戦とともに日本放送協会や内閣情報局によって関係する資料や録音盤などが徹底的に焼却廃棄されたことから、その実態把握が難しかったのだが、今回は米国公文書館に保管されていた第二次大戦対戦国からの謀略放送を傍受した録音盤の存在が明らかになったことで、この検証は一挙に具体的になったようだ。一方で戦後65年という年月は人間にとっては長すぎる時間であり、放送当事者たちの多くが鬼籍に入り、存命であってもインタビューをするための制約があったという。現代史を読み解こうとすると時間との戦いの厳しさを痛感させられる。

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2012年7月11日 (水)

「ブルックリン・フォリーズ」ポール・オースター

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ポール・オースター 著
新潮社(336p)2012.05.30
2,415円

「ブルックリン・フォリーズ」とは、あえて訳せば「ブルックリンの愚行」とでもなるのか。ポール・オースターの新作は、彼が愛し、今も住んでいるニューヨークのブルックリンを舞台にしている。ブルックリンに住んだことのある僕としては、見逃すわけにいかない。

例えばオースターはブルックリンの町について、こんなふうに書いている。

「白、茶、黒の混ざりあいが刻々変化し、外国訛りが何層ものコーラスを奏で、子供たちがいて、木々があって、懸命に働く中流階級の家庭があって、レズビアンのカップルがいて、韓国系の食料品店があって、白い衣に身を包んだ長いあごひげのインド人聖者が道ですれ違うたび一礼してくれて、小人がいて障害者がいて、老いた年金受給者が歩道をゆっくりゆっくり歩いていて、教会の鐘が鳴って犬が一万匹いて、孤独で家のないくず拾い人たちがショッピングカートを押して並木道を歩き空瓶を探してゴミ箱を漁っている街」

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2011年9月13日 (火)

「福島の原発事故をめぐって」山本義隆 「日本の大転換」中沢新一 「原発社会からの離脱」宮台真司・飯田哲也

Fukusima2山本義隆 著
みすず書房(104p)2011.08.25
1,050円



Nihon中沢新一 著
集英社新書(158p)2011.8.22
735円






Gen宮台真司・飯田哲也 著
講談社現代新書(204p)2011.06.20
798円

福島第一原発の事故をめぐって、たくさんの本が緊急出版されている。

事故を起こした原子炉で圧力容器の内部がどうなっているのか、いまだに詳細は分かっていないし、収束の見通しがきちんと立っているわけでもない。6月刊の本ならゴールデンウィーク前後、8月刊なら5、6月には執筆・編集しているはずだから、まだ水素爆発などで事故の規模や被害の様相が大きく変わる可能性もあった。ひとつ間違えれば焦点のずれた本になったり、一瞬で消えてしまうトンデモ本にもなりかねない。

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2011年8月 7日 (日)

「『フクシマ』論」開沼 博

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開沼 博 著
青土社(416p)2011.06.15
2,310円

人に運不運があるように、本にも幸運な本と不運な本とがある。どんなに優れた内容の本でも、そのとき読者の関心がそこになければ省みられず、毎日200冊以上刊行される大量の出版物の海に埋もれてしまう。その意味では、福島第一原発の事故というこれ以上ない不幸な出来事に時期を合わせるように刊行された「『フクシマ』論」は、極めて幸運な本と言えるかもしれない。

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2010年3月 7日 (日)

「ブラッド・メリディアン」コーマック・マッカーシー

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コーマック・マッカーシー 著
早川書房(436p)2009.12.25
2,310円

この人の小説を読むのは2冊目。最初に読んだのはニューヨークに滞在していた2年前で、『血と暴力の国』(扶桑社ミステリー)というやつだった。評判になったコーエン兄弟の映画『ノー・カントリー』の原作といえば、ああ、あれかと思う人もいるだろう。ヴィレッジの映画館でこの映画を見たとき、主演したトミー・リー・ジョーンズはじめ登場人物が激しいテキサス訛りの英語をしゃべっていて、ちっとも聞き取れなかった。アクション映画だから、アクションを追うことでストーリーはある程度理解できるけれど、大事なことをセリフでしゃべられるととたんに分からなくなる。映画のラスト近く、殺し屋がある女性を殺したのかどうか、コーエン兄弟らしくくどくど説明しないから、肝心なところが分からない。そんなことをブログで書いたら、僕の英語の実力のほどを知る友人が翻訳を日本から送ってくれたのだった。

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2008年11月12日 (水)

「ブラッサイ パリの越境者」 今橋映子

Bura 今橋映子著
白水社(410p)2007.03.15

4,725円

写真家のブラッサイといえば、1930年代パリの夜景や夜の街にうごめく人々を撮った『夜のパリ』(1933)があまりにも有名だ。もっとも、戦前に少部数で出版されたこの写真集を日本で見る機会はなかなかなかった。戦後の1970年代になって、『夜のパリ』に収められた作品を含めて 「パリ写真」を再構成し、さらにブラッサイ自身の文章を加えた『未知のパリ、深夜のパリ』(1976)が刊行、翻訳されている。

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2008年11月11日 (火)

「PLUTO プルートウ」第1~3巻 浦沢直樹×手塚治虫

Pluto 浦沢直樹×手塚治虫 著
小学館 2006.05.01(第3巻)
各巻550円

第1巻の最終ページでアトムが登場する。第2巻の最終ページでウランちゃんが顔を見せる。そして最新刊の第3巻最終ページで、このマンガの主人公プルートウがはじめて姿を現す。だから物語はまだ始まったばかりなんだけど、去年、早々と手塚治虫賞マンガ大賞をもらってしまった。『PLUTO』の原作が鉄腕アトムであることを考える と、あまりに早い受賞には首をかしげたくもなるけれど、浦沢直樹には手塚マンガを下敷きにした傑作『MONSTER』(これも手塚賞受賞)という実績もあ り、それだけ期待が高いってことだろう。

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2008年11月 9日 (日)

「不良定年」 嵐山光三郎

Huryo 嵐山光三郎著
新講社(240p)2005.02.10

1,500円

8年前に嵐山光三郎が書いた本に『「不良中年」は楽しい』(講談社)がある。当時、嵐山は55歳。彼が人生の師と仰ぐ色川武大=阿佐田哲也が、「50歳になったら何をやってもよい」と書いたのを受けて(色川の場合、それ以前だって放蕩無頼の人生だったように見えるけど)、中年よ不良化しよう! という魅力的なメッセージだった。

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2008年11月 8日 (土)

「封印される不平等」 橘木俊詔

Huuin 橘木俊詔編著
東洋経済新報社(234p)2004.07.29

1,890円

最初の1行には、「日本の平等神話は崩壊している」とある。かつて日本は、「先進諸国で貧富の差がいちばん少ない国」とか「世界でもっとも成功した社会主義国」とか言われてきた。でも、そういう言い方が過去のものであることは、この10年、誰もが肌身に沁みて感じている。この本は、目の前で進行する格差の拡大にたいして積極的に発言してきた4人の論者――橘木俊詔(経済学)、刈谷剛彦(教育学)、斉藤貴男(ジャーナリスト)、佐藤俊樹(社会学)――による座談会と、それを受けた橘木の論によって構成されている。

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