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マラス 暴力に支配される少年たち/満映とわたし/幻の、京都/満洲国のビジュアル・メディア/松本清張の「遺言」/マジカル・ラテン・ ミステリー・ツアー

2016年12月20日 (火)

「マラス 暴力に支配される少年たち」工藤律子

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工藤律子 著
集英社(336p)2016.11.30
1800円+税

5年ほど前、『闇の列車、光の旅(原題:Sin Nombre /名無し)』というメキシコ・アメリカ合作映画を見たことがある。貧しいホンジュラスの少女が、父がアメリカに残した家族に会うためパスポートも持たず貨物列車の屋根に乗り、アメリカ国境に向けてメキシコを旅する映画だった。少女は列車の屋根に乗る移民を襲ったギャングの少年と仲良くなり、少年は逆にギャングに追われることになって少女とともに逃避行を試みる。物語の大部分が列車の屋根の上で展開する、とてもユニークな映画だった。

貧困やギャング、麻薬といった中米がかかえる問題を背景にした青春映画。きっと映画が描いたような現実が実際にあり、それをベースにしているんだろうな、と感じた。『マラス』を読んでいたら、映画と同じように貨物列車の屋根に乗ってアメリカを目指すホンジュラスの少女が出てきて、ああやっぱり、と思った。

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2015年10月18日 (日)

「満映とわたし」岸冨美子/石井妙子

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岸冨美子/石井妙子 著
文藝春秋(312p)2015.8.5
1600円+税

満洲国の国策映画会社だった満映(満洲映画協会)については、さまざまな角度から語られ、単行本や雑誌の特集も出ている。最大のスターだった李香蘭について、あるいは大杉栄虐殺の首謀者として服役・出獄して満映理事長になった甘粕正彦について、戦前は満映、戦後は東映の幹部として活躍したプロデューサー・牧野満男を中心とした満映人脈について、そのなかで最も知られた名前である内田吐夢、加藤泰といった映画監督について……。

そうしたものを読むとき、岸富美子という名前が随所に出てきて記憶に残った。満映の編集者として活躍した女性エディターのパイオニアである。『満映とわたし』はノンフィクション作家・石井妙子の協力をえて書かれた、岸が満洲から帰国するまでの前半生を回想した自叙伝。岸の手記に石井が解説と注をつけている。

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2014年12月17日 (水)

「幻の、京都」西川照子

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西川照子 著
光村推古書院(338p)2014.10.31
2,700円

「隠れた歴史の深淵を訪ねる」とサブタイトルを打たれたこの本には、京都の二十カ所余りの寺社が取り上げられている。八坂神社や金閣寺といった観光スポットもあるけれど、大半は観光客の行かない小さな寺や神社。なかには一条戻橋といった橋や、山のなかの祠、小路に祀られた石の塚なんかもある。

著者の西川照子は『神々の赤い花』など民俗学の著書を持つだけでなく、京都で出版企画集団を主宰している。90歳近くなお旺盛な執筆活動をつづける梅原猛の調査・執筆に長年にわたって協力もしてきた。

本書は梅原の『京都発見』(全8巻、新潮社)を「“母”として誕生した」とあとがきに記されている。『京都発見』のために著者は梅原とたくさんの寺社を訪れ、貴重な資料を見、さまざまな話を聞いた。その一部は梅原の著書に生かされたが、漏れたもののほうがずっと多い。それらの地を今度はひとりでめぐり、「その収まりきれぬ物語をここに書いた」という。

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2010年7月15日 (木)

「満洲国のビジュアル・メディア」貴志俊彦

Mansyu

貴志俊彦 著
吉川弘文館(242p)2010.06.10
2,940円

この本には106点に及ぶ満洲国の「ポスター・絵はがき・切手」(本書のサブタイトル)の図像が収められている。満洲国については数えきれないほどの歴史書や体験記、研究書が出ているけれど、ポスターや伝単(宣伝ビラ)、絵はがき、切手といったビジュアル・メディアに焦点を当てた本は、僕の知るかぎりではなかった。これまでも挿画的に何点かが紹介されてはいたけれど、この本はポスターを中心に、現在、目にすることのできるビジュアル・メディアを最大限集めようとしたところに面白さがある。

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2009年8月 6日 (木)

「松本清張の『遺言』」原 武史

Matumoto 原 武史
文春新書
266p2009.06.20
840


サブタイトル「『神々の乱心』を読み解く」。『神々の乱心』1992年に亡くなった松本清張の遺作を指す「満州国」建国直後の昭和を舞台に、ひとりの女官の自殺をきっかけに宮中をめぐる陰謀が明らかになる大胆にして野心的なミステリーだ。ただ残念なことに、未完に終わっている。者の原武史は『大正天皇』(朝日選書)、『昭和天皇』(岩波新書)が話題になった政治思想史を専門とする気鋭の学者であるとともに、鉄道マニアとしても知られる。松本清張の鉄道ミステリーの編者にもなっているから、本業でも趣味でも清張ワールドと重なるわけで「読み解く」のにこれ以上の適材はいない。

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2008年11月 6日 (木)

「マジカル・ラテン・ ミステリー・ツアー」野谷文昭

Magical 野谷文昭著
五柳書院(448p)2003.12.12

3,360円

訳者で買ってしまう本がある。しかもそれが好きな著者の本であれば、買ったときからもう悦楽の読書が約束されたようなものだし、知らない著者の本であれば、この人が訳したのなら面白いにちがいないと勝手に思いこむ。そんな訳者が何人かいる。ドイツ語の池内紀、フランス語の堀江敏幸、英語の井上一馬、田口俊樹といった人たち。僕にとっては、スペイン語の野谷文昭もそんな一人だ。

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