「昔話はなぜお爺さんとお婆さんが主役なのか」大塚ひかり
大塚ひかり 著
草思社(268p)2015.3.16
1,620円
木曽路を歩いていたとき上松宿の近くで「寝覚の床」という景勝地で休憩をした。花崗岩の巨石が河原一面を埋め尽くし、木曽川の清流が青い水面を湛えている。そこが浦島伝説の舞台との話を初めて知った。浦島伝説と言えば「海」と思っていたので、この山の中で浦島伝説と言われて驚いたものだ。この様に、多くの昔話が多少の変化はあったとしても日本各地で語り続けられてきたというのも事実だ。本書のタイトルの通り、昔話といえば必ずと言っていいほど「むかし、むかしあるところにお爺さんとお婆さんがおりました」という枕詞ではじまるのが定番である。
そこに登場する老人達の「子供がいない」「貧乏で朝から晩まで働いている」「良い老人の隣には悪い老人が住んでいる」等、似たようなキャラクターは当時の老人の典型なのか、なぜ昔話に高い頻度で老人が登場していたのかについて本書は多様な視点からの「謎とき」をしてくれている。例えば、社会の老人比率について、江戸時代後期の信濃の国のある農村の統計では66歳以上の人口は数%と伝えられている様に極めて低い数字なのだが、柳田邦夫の「日本の昔話」に収録されている100を超える昔話で老人が登場する話は53%、老人を主人公とする話は31%と著者は語っている。
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